消費税法上、投資事業有限責任組合の持分の「譲渡」は非課税取引?不課税取引?「償還」なら非課税取引?不課税取引?
問題の所在
金融商品の税制は難解であるが、特に、消費税絡みは、わかりにくい。
通常、有価証券の譲渡等は非課税取引とされているが、投資事業有限責任組合の持分の償還は、
- 「投資事業有限責任組合」といっても、形態としては、匿名組合、投資信託、投資法人、私募ファンド、ブリッジスキームと様々ある。
- 例えば社債について、「償還」は、譲渡(=売却)とは異なる。
点で、迷ってしまう。
結論
投資事業有限責任組合の償還も、有価証券の譲渡等と同じ扱いであり、非課税取引。(契約書さえ見なくていい)
(なお、国税庁の電話相談センターに質問したところ、やはり「非課税取引です」と言い切っていた。)
理由
シンプルに考える。
投資事業有限責任組合は、法人格がない。個人でも法人でもない。
人格のない社団でもない(cf 人格のない社団とは、法人格は無くても団体としての性格を有する)。
匿名組合でもない(cf 任意組合(民法上の組合)との主な相違点を整理すると次のようになる)。
相違点 | 任意組合 | 匿名組合 |
---|---|---|
① 事業の性格 | 共同事業 | 営業者の単独事業 |
② 対外的権利義務 | 原則、各組合員が有する。 | 匿名組合員は、有しない。 |
③ 契約の性格 | 組合員相互の契約 | 営業者と組合員の契約 |
④ 組合財産の性格 | 組合員の共同所有 | 営業者の所有 |
投資事業有限責任組合とは、民法上の組合の特例で、各当事者(組合員)が出資をして、共同で一定の事業(株式等への投資事業他)を営むことを約する契約をいう(投資事業有限責任組合に関する法律3)。
つまり、任意組合でもなく、匿名組合でもなく、一定の比較的大規模な事業を営むことが可能で、にもかかわらず有限責任のメリットを享受する、いわば、「いいとこ取り」の制度である。
そして、投資事業有限責任組合では、組合員の出資、その他の組合財産は、総組合員の共有に属する(同法16)。
つまり、その事業で共有する資産のみならず、その持分も、投資事業有限責任組合自身は持たない。つまり、組合員の側からは譲渡だの償還だのと言うが、投資事業有限責任組合の側からは譲渡だの償還だの取引はそもそも想定されない取引ということになる。
実務上も、形式的には償還であっても、それが当の投資事業有限責任組合に帰属しない以上、その償還の実態は、他の組合員が譲り受ける、つまり譲渡と実態は変わらないであろう。
(私見であるが、財務省的には、このような曖昧な、いいとこ取りの組織体など認めたくないであろうが、平成15年前後に、経済産業省が作ってしまった組織体であり、法的には ぬえ のような存在であり、課税主体となりえない。だがしかし、実務上、扱う必要はある。)
▼
改めて、
金融商品取引法では、真正の有価証券は、第2条第1項で列挙し、それ以外のみなし有価証券は第2条第2項で規定しており、投資事業有限責任組合はその第2条第2号5号で明記されている。
五 民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百六十七条第一項に規定する組合契約、商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成十年法律第九十号)第三条第一項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成十七年法律第四十号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)
この点に関し、消費税法では、消費税法施行令9条第1項の、有価証券等の譲渡で非課税取引および非課税取引に類する取引の例示(形式的には例示)の中で、譲渡等の金融商品取引法第2条第1項は引用しているが、第2条第2項は引用していない。
(→ということは消費税上は投資事業有限責任組合の持分譲渡は非課税取引ではないということ?)
そこで、実務上は、
- 匿名組合について、消費税の本法ではなく、通達でもなく、「質疑応答事例」で以下のように扱い、
- その中の「等」に、投資事業有限責任組合が含まれる
という曖昧な運用をしているものと推定する:
匿名組合の出資者の持分の譲渡 ー【回答要旨】
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/24/01.htm
(以下、一部抜粋、着色は筆者)
匿名組合の出資者の持分の譲渡は、消費税法施行令第9条第1項第2号《有価証券に類するものの範囲等》に規定する「その他法人の出資者の持分」に該当し、有価証券に類するものの譲渡として取り扱います。なお、この「出資者の持分」には、人格のない社団等、民法の組合に対する出資持分等も含まれます。
▼
匿名組合については、非課税取引とされる有価証券は人格のない社団、匿名組合、任意組合の 出資者持分「等」(カッコ書きは筆者)もこれに含まれます」とある。
投資事業有限責任組合は匿名組合の類似概念であり、投資事業有限責任組合は、金融商品取引法2条2項5項で、民法上の任意組合、商法上の匿名組合等と同様に持分集団投資スキーム持分の一つとして列挙されていることから、同様に、いわゆるみなし有価証券として同一の扱いがなされていると推定される。
ゆえに、上の質疑応答事例の中の「等」に、投資事業有限責任組合が含まれるものと解される。したがって、投資事業有限責任組合の持分の譲渡は非課税売上であると考える。
そして、以上の検討から、譲渡も償還も同等に扱うのが相当であると考える。
補足
消費税の実務の特徴は、他の所得税や法人税などと違い(失礼!)、理詰めで考える点。
ただ、、、その理詰めがきりがない点や限界は、もう質疑応答で逃げる(?)
■